特定の仕事をテーマにした「職業もの」というジャンルがあります。たとえば、ドラマであれば、警察ものや医療ものは1クールに1つはあるし、教師ものなども根強い人気です。アニメなら、アニメ制作会社の『SHIROBAKO』やゲーム会社の『NEW GAME!』のような他ではあまりない職業の有名作品もあります。
百合で職業ものといえば、有名作品はいろいろありますが、そのゲームとは思えないリアルさとシナリオの面白さで外せない作品があります。『白衣性恋愛症候群』です。
『白衣性恋愛症候群』は、2011年に工画堂スタジオから発売された恋愛アドベンチャーゲームです。PSPやSwitch、PCなどでプレイでき、通常版のほか、2012年に新キャラや新シナリオが追加された『白衣性恋愛症候群 RE:Therapy』、2019年にはリマスター版が発売されています。
百合ゲーを探していると、名作として挙げられていることも多い作品ですが、どんな魅力があるのか紹介したいと思います。
リアルすぎる仕事描写
『白衣性恋愛症候群』はそのタイトルのイメージどおり、看護師をテーマにした作品です。プレイヤーは主人公の新人看護師・沢井かおりの視点でシナリオを進めながら、先輩看護師や患者さんなど交流し、目当てのキャラを攻略していくことになります。
可憐なキービジュアルや公式サイトの「キラ☆ふわガールズラブ」などというキャッチコピーを見ると、白衣姿の看護師さんが優しくしてくれる癒やし系のゲームか……などと思ってしまいそうですが、騙されてはいけません。メインストーリーは熱いお仕事成長ドラマです。
物語は看護学校を卒業したばかりのかおりが初めて病院で働きはじめるところから始まります。かおりは知識も経験もない中、慣れない仕事に戸惑いつつも奮闘していきます。ときには失敗して落ち込むこともありますが、手練れの先輩たちにフォローされながら少しずつ成長していくのです。
まずプレイした人の多くが驚くと思うのが、仕事の描写のリアルさです。キャラクターたちは百合ゲーらしくかわいらしい雰囲気ですが、仕事風景はとにかくリアルで臨場感満載。シナリオライターが看護師経験者というだけあって、生々しい描写にも妥協はありません。
たとえば、新人看護師であるかおりが初めて任される仕事の数々。血圧チェックや点滴交換など医療現場で働いたことのない人でもなんとなく想像がつく仕事から、おむつ交換や食事を嫌がる患者への指導など、いかにも大変そうな仕事の様子もありありと描かれます。
かおりは最初のうちは新人らしく、なかなか思うように仕事をこなせません。思いがけないミスをしたり患者さんとうまくいかないこともしばしば……。このミスというのが、ちょっとした気のゆるみだったり、会話のすれ違いだったりするのですが、一度でも社会に出たことのある人なら1つは「わかる!」と思えるエピソードがあるはず。
そんなリアルなシナリオだからこそ、没入感もすごいのです。かおりが健気に成長していく様子だけでも胸を打たれますし、医療ものならではの感動エピソードもあります。恋愛ゲームとしての魅力はもちろんですが、まずはそれを抜きにしてもシナリオが面白いので、初見プレイ時はお仕事ドラマとして主人公に感情移入しながら楽しんでみるのもありかもしれません。
医療ものだからこその関係性
このシナリオの良さをさらに盛り上げてくれるのが、魅力的なキャラクターです。プレイし始めたばかりの頃にまず出会うのが個性豊かな先輩看護師たち。主人公が新人なだけあって、作中関わることの多い彼女たちですが、それぞれ別のタイプの良き先輩として主人公を導いてくれます。
たとえば、一見クールな大塚主任。主人公からすれば一番の上司にあたるキャラで、立場上厳しい指導をされることもありますが、何かあったときに最も頼りになるのも彼女です。怖そうに見えがちですが、不器用な優しさや仕事外での意外な一面も……。
実は彼女はPC版のキービジュアルでは中心に描かれているだけあって、作品の顔ともいえるキャラです。発売当時は社会人もの自体が珍しかったようですが、まして年上のお姉さん的な人物がメインヒロインなのも画期的です。それだけシナリオも凝っており、他ではなかなかいないタイプのキャラなのでぜひ注目してみてほしいと思います。
一方で、魅力あるキャラクターは看護師だけではありません。攻略対象には主人公に懐いてくれる年下の患者や、いわゆるツンデレ的な気難しい患者のキャラクターも登場します。職場恋愛は色々なパターンがありますが、看護師と患者という関係性を楽しめるのはこのゲームならではでしょう。
医療ものだけあって、シリアスな展開も当然あります。患者のキャラは病気で入院しているので、その苦労や不安から主人公と衝突してしまうことも……。でも、その過程で仲良くなっていくエピソードが感動的で、職場の先輩たちとは違った関係性の良さがあります。
職場とプライベートのギャップの破壊力
これだけ職業ものとしての魅力ばかり紹介してしまうと、肝心の百合ゲーとしての要素はどうなのか?と思う人もいるかもしれませんが、安心してください。名作百合ゲーといわれるにふさわしい百合要素もたくさんあります。
特に素晴らしいのが、看護師という設定を活かした百合シーンです。あまり紹介すると楽しみがなくなってしまうので詳述は避けますが、宅飲みしていた先輩と白衣を着たままふざけあう……なんていう背徳感満載のシーンも。他にも、誰もいない病室、立ち入り禁止の屋上、先輩たちと一緒の寮生活など、妄想が広がるシチュエーションが大量に登場します。
さらに、作品の大きな魅力が、個別ルートに入ってからの固有シナリオです。物語の設定上、どうしても相手は職場の先輩だったり患者だったりするので、共通ルートでは公共の場の顔ばかり見ることになります。だからこそ、個別ルートで親密になったときに見られるプライベートの顔の破壊力がすさまじいのです。
たとえば、気難しい患者のキャラクターとして描かれている堺さん。病室では主人公に辛くあたるばかりですが、仲良くなると外では想像もつかなかった百合度高めのかわいいシーンが見られることも……。
共通ルートでは仕事関係のエピソードが多いからか、キャラクターによっては攻略後のアフターのシナリオが多めのルートもあります。しかもグッドエンドだけではなく、バッドエンドにもかなり面白いシナリオがあったりするので、気に入ったキャラがいたらやり込んでみることもおすすめです。
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とにかくリアルで感情移入してしまうシナリオが魅力のゲームですが、百合ゲーとしても素晴らしい作品だと思います。気軽にダウンロード版で遊べるので、気になった人はぜひプレイしてみてほしいです。

