おすすめ百合作品を紹介する④アデル、ブルーは熱い色

おすすめ百合作品を紹介する④アデル、ブルーは熱い色

百合映画というと、どの作品が思い浮かぶでしょうか。外国作品にも触れやすい分、アニメや漫画よりも範囲が広すぎて、人によって「これは!」と思う作品が結構割れるのではないでしょうか。むしろ、誰もが必ず知っている作品がそれほどないからこそ、発掘しがいがあるといえるかもしれません。
2020年に星海社新書から『「百合映画」完全ガイド』という本が出ています。百合要素のある映画だけを紹介した本ですが、ここに載っているだけでも300もの作品があります。ちなみにカバーイラストは志村貴子先生が描いていて、このイラストを見るためだけでもいいので手に取ってほしいのですが……と、語れることの多い本なので、また別の機会にでも触れられたらと思います。
今回紹介したいのが、2013年(国内では2014年)に公開された恋愛映画『アデル、ブルーは熱い色』です。アブデラティフ・ケシシュ監督によるフランスの作品で、2013年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を受賞しています。
同性愛をテーマにした映画としては有名な本作ですが、リアリティを追求した撮影方法や長尺のベッドシーンが話題を呼び、批評の対象にもなりました。公開時には各国で年齢制限が設けられ、国内でもR18+で公開されています。原作はジュリー・マロによる人気バンド・デシネ(フランス語圏の漫画)です。

ドラマティックなのに生々しい二人の出会い

写実的な表現が多くの批評家に評価された本作ですが、その魅力はなんといっても、リアルな描写ゆえの没入感です。
ストーリーを簡単に紹介すると、主人公の女子高生・アデルが青髪の美大生・エマと出会って恋に落ちていく、といういたってシンプルな恋愛映画です。しかし、そのシンプルさの中に恋愛の楽しさや難しさの緻密な描写が詰まっていて、目を奪われずにはいられません。
まず注目したいのが、二人の出会いのシーンです。時間にするとほんの数十秒のシーンではあるのですが、主人公のアデルがエマに惹かれていく様子が生々しくも鮮やかに描かれています。これから恋愛が始まっていくんだろうなという期待感と、この子はどうなってしまうんだろう……という不安感とで、最初からクライマックスかのような盛り上がりが感じられるでしょう。
このときのエマもまたいいのです。初登場のシーンでは、彼女はアデルと言葉をかわすこともなく一瞥するだけです。しかし一瞬のシーンのはずなのに、その圧倒的に目を引くたたずまいで、強烈な印象を残していきます。百合漫画でいえばいわゆるボーイッシュ的な人物のエマですが、その格好よくも美しくもある姿に、アデルでなくても惹かれてしまうに違いありません。

圧倒的なインパクトのあるベッドシーン

そしてリアルな描写の筆頭といえば、賛否の分かれる対象ともなったベッドシーンです。
二人はベッドの上で、もみ合い、抱きしめ合い、かぶりつき合い、ひたすら激しく愛し合います。これでもかというくらい情熱的なカットが続くのですが、全部で7分間もあるというのだから驚きです。百合という言葉から連想しがちな耽美さや儚さというよりは、力強さや猛々しさすら感じられるかもしれません。しかし、それがまた美しいのです。
映画自体の評価にもつながったシーンですが、女優たちにとっては過酷な現場だったといいます。撮影期間は10日にもおよび、監督はひとつのカットに100ものテイクを要求したという話も。エマ役のレア・セドゥは「彼は頭がおかしい」とインタビューで答えていたともいいます。こうしたエピソードを知らずとも、迫真の演技とリアリティには驚くこと間違いなしなので、ぜひ映像で見てほしいと思います。
撮影的な話でいうと、この映画の面白さの一つに、女優の顔アップのシーンが多いことがあります。心理描写というと、小道具を使ったり舞台設定にこだわったり、様々な方法がありますが、本作は女優の表情によっていろいろなものを表現します。何気ない喜びのシーン、言い知れぬ不安を感じるシーン、嫉妬を隠し切れないシーンなどなど。微細な感情の揺れ動きが、主役のアデルの表情によって細やかに表現されます。アデルの表情はとにかく豊かで、スパゲッティを汚しながら食べたり、口を半開きで寝入ったり、鼻水を流しながら泣いたりと、必ずしも綺麗な顔ばかりではないのですが、その自然っぽさがむしろかわいらしく、魅力的に感じられるのです。
ストーリーがシンプルだからこそ、女優の演技や表現の面白さにも注目してみることで、意外な発見があるかもしれません。

どうしようもなく切ないすれ違い

もう一つ、この作品の大きな魅力といえるのが、すれ違う二人の切ない描写です。間違いなく恋愛の素晴らしさを描いた映画ではあるのですが、うまくいくばかりではない恋愛の厳しさや難しさも教えてくれる作品といえます。
アデルとエマは出会ったときから馬が合い自然に心を通わせていきますが、バックボーンは大きく違います。もともと異性愛者として堅実なマジョリティの家庭で育ってきたアデルと、幼い頃からレズビアンだと自認し比較的裕福で自由な家庭で育ってきたエマとでは、どうしても価値観のすれ違いが起こります。
それは家族関係のことだったり、仕事へのスタンスであったりするのですが、特筆すべきは、エマを通して初めて芸術関係のきらびやかな世界に触れることになったアデルの不安です。美大生であるエマは自分が所属するアーティストのコミュニティにアデルを呼ぶのですが、アデルはなかなか馴染むことができず葛藤します。海外のインテリ文化に触れられるという意味では面白いシーンもたくさんあるのですが、アデルに感情移入して見ていると心が痛くなる場面も多いかもしれません。
二人はささいなすれ違いに何度も直面しながら、不安定になったり修復したりを繰り返していくのですが、その恋愛関係の難しさや切なさは胸を打つものがあります。「幸せなだけのカップルが見ていたいんだ!」という人には合わないところもあるかもしれません。しかし、すれ違いの描写に垣間見える二人の強い感情に、心揺さぶられずにはいられません。辛いのになぜ感動してしまうのか……。ストーリーを追いかけながら、この矛盾する思いをぜひ感じてほしいと思います。
若干ネタバレになってしまうので、初見の人は次の段落まで飛ばしてほしいのですが、ラストにかけての切ない展開には激しく引き込まれずにはいられないでしょう。何か大きな出来事があるわけではないのですが、関係性が変わってしまった二人がカフェで再会するシーンの破壊力はすさまじいです。長い映画だからこそ、二人の恋愛を始まりから見守ってきたからこそ、このシーンの重みも増すのです。颯爽と去って行くエマとそれを見守るアデル……。二人の行く末には別の道がなかったのかと思わずにはいられません。


本作はアマゾンプライムのほか、YouTubeやHulu、Google playムービーなど、いろいろなプラットフォームで配信されています。映画を見てハマったという人は、ジュリー・マロの原作『ブルーは熱い色』の日本語版も出ていますので、ぜひ読んでみてください。こちらは映画版と結末が変わっていたりだいぶ印象が違うので、また別の視点で楽しめると思います。
百合映画は国内外様々な作品がありすぎて、何から見始めたらいいか迷っている方も少なくないはず。ブログを見たのも何かの縁、まずはこの1本から見始めてみるのもよいのではないでしょうか?