「おすすめの百合作品を紹介してくれ」と言われたらなんと答えますか?
ひと昔前なら『マリア様がみてる』、少し前までなら『やがて君になる』が鉄板だったかなと思うのですが、いまは作品数も増えて、人の趣味も多様になってきている中で、鉄板を決めること自体が野暮なのかもしれません。
しかし、それでもあえて鉄板作品を探してみようとすると、案外難しいことに気づきます。社会人ものに日常系、シリアス、SFなど、ジャンルだけでも細分化しているうえに、シチュエーションや設定も凝っているものが少なくありません。
有名作品である『やがて君になる』にしても、実はよくよく読んでいくと、人物の過去の話などが複雑に絡み合っていて、百合というよりヒューマンドラマの要素も強いような気がします。
じゃあ、なるべくストレートに王道っぽい作品とえいばなんなのか……。
人によって定義が違うのは前提として聞いてほしいのですが、ぜひおすすめしたい作品があります。というか、全人類にもっと読んでほしい作品があります。
それは、森永みるく先生の『GIRL FRIENDS』です。
GIRL FRIENDSとは、コミックハイ!で2006年から2010年まで掲載されていた、女子高生同士の恋愛を描いた百合漫画です。単行本は双葉社から全部で5巻出ています。
「なんだ10年以上も前の作品じゃないか……」と思って帰ろうとしたなら、ちょっと待ってください!
それだけ前からある作品だからこそ、いまでも色褪せない良さがあるのです。
細やかな心理描写がすごい
まず素晴らしいのは、圧倒的に丁寧な心理描写です。
一見、かわいくて笑いどころもあるポップな漫画なのですが、あなどることなかれ。気づけば登場人物に感情移入して一喜一憂してしまうような、繊細な描写が満載なのです。
物語は主人公の高校1年生のまりがクラスメイトのあっこに心惹かれていく過程を描いていくのですが、二人は運命的な出会いをしてすぐに恋に落ちるようなことはありません。新しい友達と仲良くなっていくときの嬉しさや、始まったばかりの高校生活への期待感、同性の友人関係だからこその楽しさなどが丁寧に描かれていきます。
たとえば、生まれて初めて友達と洋服を買いに行って、その夜にテンションが上がりすぎて夢の中でファッションショーをしてしまうという主人公の描写。
あまりにもかわいすぎるじゃありませんか!でもその気持ち、わかる気もしませんか?こういう描写の一つひとつが、とても細やかなのです。
もちろん、百合ならではの急接近シーンもありますが、早急なことはありません。露骨なサービスシーンではなく、二人が仲良くなっていくきっかけや人物描写の一つとして、ちゃんと理由ありきで描かれています。
思いが高ぶって友達にキスしてしまうシーンなどは、百合ならおなじみでしょう。しかし、こういう場面でも、この作品はそのままなしくずしに……なんてことはなく、主人公はキスをしたこと自体を「冗談だった」とごまかしてみたり、相手はそれこそが嘘なんじゃないかと疑ってみたり、探り探り展開が進んでいきます。
人によってはやきもきするかもしれません。でも、その葛藤があるからこそ、気持ちが通じ合ったときのカタルシスもすごいのです。「かわいい」「尊い」と思うのは当然のこと、「よかったねぇ……」と親戚のような気持ちで見守りたくなってしまうこと間違いなしです。
実際にいそうな女子高生感がすごい
もう一つ素晴らしいのは、リアルな女子高生の日常描写です。
ゼロ年代の作品なので、いまの女子高生とは生活環境もだいぶ変わっているとは思いますが、当時の様子が目に浮かんでくるような生々しさがあるのです。
たとえば、ちょっとした会話に出てくる固有名詞の多さに驚きます。
ミスド、プリクラ、アンミラ、ヴィダルサスーン、リズリサ、デジャヴュ、ボディバター、ドーリーガール……。
刺さる人には刺さるし、刺さらなくてもどこかで聞いたことがあるかもしれない。そんな名詞がいろいろと出てきます。当時のマックで隣の女子高生グループの会話をうっかり聞いてしまったかのような気まずさすら感じてしまうかもしれません。
主人公以外のクラスメイトの人物造形もなんともリアルです。
体育の授業で創作ダンスを恥ずかしがる子、身体測定のときだけ食事を抜く子、年上の彼氏ののろけ話ばかりする子、部分日焼けを気にする運動部女子……。そんなクラスメイトたちとの他愛のない日常生活が繰り広げられるのですが、その一つひとつに「うわ、こんなことあったかもしれないな」と親しみを感じずにはいられません。
登場人物たちは、友達の失恋に共感して泣いてしまうピュアさを持ち合わせていながら、親に内緒で合コンに出かけたりもするし、ネットでセックスの仕方を検索しようともします。すれているわけでもなく、純朴すぎるわけでもない、どこかにいそうな女子高生感がかわいいのです。
王道展開が逆に新しくてすごい
さらに素晴らしいのは、いい意味でストーリーがシンプルなことです。
鉄板作品として推したい理由にもつながるのですが、物語が一貫して主人公二人の関係性を軸に進んでいくのがいいのです。
実はこれは案外珍しいのではないかと思っています。どうしても長編の場合、脇役が目立ってしまったり、部活や仕事などの要素が大きくなったり、家族関係やコンプレックスなどの問題にフォーカスが当たりすぎたり、話が広がりがちです。しかし、この漫画はひたすらに二人の関係性を描き続けます。
二人とも部活をしていなければ、バイトの話も出てきません。複雑なバックボーンがあるわけでもありません。ただ、日々の高校生活の出来事が描かれていくだけです。ここまで他の要素がないにもかかわらず、面白くて読み飽きないのはすごいことだと思うのです。
このシンプルに恋愛の楽しさを描いた作品であることこそが、いろんな人に読んでほしい理由です。尖ったテーマや特殊な設定がなくても、百合はここまで面白いのだぞ……と正論パンチで証明できる作品だと思っています。
いま手に入れることは多少大変かもしれませんが、それでもぜひ一度は手にとってほしい作品です。これから初めて百合に触れるという人も、最近ハマってきたという人にも万人におすすめです。
気になった方はぜひチェックしてみてください!

