おすすめの百合作品を紹介する⑩瑠璃色の夢

おすすめの百合作品を紹介する⑩瑠璃色の夢

前回は幾原監督作品のユリ熊嵐について紹介しました。その中で魅力の一つとして触れたのが、森嶋明子先生のキャラデザのかわいさです。
清楚だけど芯の強そうな紅羽、中性的な雰囲気のある銀子、無邪気で明るいるる、美麗なユリーカ先生……。メインの人物はもちろん、サブキャラクターの学園の生徒たちも、出番が少ないのがもったいないくらいのかわいさです。一見、ポップでかわいいけれど、しなやかで女性っぽさもある、あのキャラデザが気になった人も多いのではないでしょうか?
実を言うと、まさに私がそうです。あのデザインを考えたのはどんな人なんだろう?と思って調べているうちに、森嶋明子先生を知りました。しかも、その人は漫画家で、百合作品をたくさん描いているというではないですか!これは過去作を読んでみなくてはと思い、取り急ぎいろいろ買ってみると、作風がドストライクに刺さってしまい、それ以来ファンになりました。
そんな前回との作品つながりで、今回は森嶋明子先生の短編漫画『瑠璃色の夢』を紹介したいと思います。

引用:Amazon

ありそうでなかった関係性

『瑠璃色の夢』は2009年に一迅社から出版された漫画作品です。全1巻で、7話の短編が収録されています。
それぞれの短編は、登場人物のキャラクターや年齢もバラエティに富んでいます。会社員の同僚同士のカップル話、元カノと友達関係を続けている二人の話、元塾講師と元生徒の話などなど……。社会人ものも学生ものもどちらも楽しめます。
面白いのは、登場人物の関係性も様々なところです。たとえば、学生時代に付き合っていた恋人と社会人になってもつかず離れずの関係を続けている二人が登場します。そんな設定を聞くと、別れたのに体の関係は続いている泥沼化した二人の話だろうか……などと想像してしまいそうですが、全然違います。二人は目の前のかわいい女の子をどちらが先に落とせるか競い合ってしまうような爽やかなライバル関係。軽口をたたき合ったりしつつも、信用できるところは信用している、いい友人同士です。
もう一組、近所のお姉さんと遊びにくる子ども、という関係性から恋人関係になった二人の話も絶妙です。二人とも成人していて今ではいい大人ですが、どうしても元・近所の憧れのお姉さんと、元・近所の元気な子ども、という関係から抜けきれません。なかなか恋人同士らしくなれない二人もかわいいのですが、当人たちはその関係性を少しずつ変えていきたいとも思っていて……。
そんな感じで、一見ありそうで意外となかった設定の二人が登場するので、関係性萌えの人にはたまらない作品です。もしかすると、これまでは刺さらなかった属性にうっかりはまってしまう……なんていうこともあるかもしれません。

明るいけれどリアリティもある

もう一つ、この作品の大きな魅力といえるのが、全編通して明るく読後感が良い話が多いことです。設定だけ見ると重く見えそうな話もあるのですが、それでもシリアスすぎることはなく、暗い話やどろどろした話が苦手な人でも楽しめます。ユリ熊嵐の日常パートそのままに、コミカルな描写も多く、思わず笑ってしまうエピソードやあるあるネタもたくさんあります。
それでいてすごいのが、リアリティもあるところです。この作品に出てくるカップルたちは、友達以上恋愛未満だったりエス的な関係性ではなく、恋愛関係であることがはっきりと描写されています。
しかし、リアルな同性カップルの話となると気になるのが、シリアス展開が増えること(もちろん例外もありますが)。一方で、明るくギャグ路線となると、少しファンタジー化してしまう……。個人的にはこのジレンマを結構感じることが多いのですが、この作品は明るさとリアルさの両方があります。
たとえば、百合でありがちな、元ストレートとレズビアンのすれ違い。この作品でも、元ストレートの彼女が会社の飲み会でうっかり自分の結婚観を語ってしまう、というエピソードがあります。その後、同席していたレズビアンの彼女が「やっぱりあなたは男と結婚したいのね!」とキレるという王道展開があるのですが、それをもう一人は「そんなわけないじゃん!」と強く言い返して、その場で話は収まります。それが尾を引いて、シリアス展開に……なんてことはありません。でも、このあっさり感が逆にリアルだと思うのです。
こんな紹介をすると、至極真面目な漫画だと思われてしまいそうですが、読んでみてもらえればわかるとおり、作品自体はものすごくかわいくてポップです。だけど、深く読み込んでみると、独特な明るさとリアルさがある……。ハマる人はすごくハマる作風だと思います。

他作品でサイドストーリーが読める

最後に紹介したいのが、この短編集とリンクしている別の作品があることです。森嶋先生は短編集を何冊か出していているのですが、ある短編集に出てきた登場人物が別の短編集に出てくるというパターンが結構あります。
そして、瑠璃色の夢の登場人物が出てくるのが、『楽園の条件』と『初めて、彼女と。』です。前者には一組、後者には二組のカップルが登場します。ただし、この2冊自体が連作になっているので、もし読んでみたい人は先に出ている『楽園の条件』から読んだほうがいいかもしれません。
この連作方式の短編集のいいところが、一つの短編でメインになっていた人物とは別の人物の視点で物語が楽しめるところです。「あの話で素っ気なかったあの人物は、実はこんなことを思っていたのか……」みたいな妄想がいろいろと捗るのが楽しいです。
たとえば、『初めて、彼女と。』には、先に紹介した、元恋人関係だった二人の話が何話か入っているのですが、二人の視点から過去の関係性が掘り下げられているのがとてもいいです。特に二人が出会うきっかけとなった学生時代のエピソードがとにかくかわいい!オタクが考える「この二人のあんな時代が見てみたい……」というのを全力で叶えてくれる夢のような短編集です。
ちなみに、瑠璃色の夢のサイドストーリーに限らず、この2冊に入っている短編もどれもとても素晴らしいです。1冊ずつ独立して読んでも、2冊通して読んでも楽しい作品なので、気になった人はぜひ両方とも手に取ってみてほしいと思います。


明るくかわいい、だけどリアル、という作風がとにかく激推しの作品です。私はユリ熊嵐きっかけでしたが、もしも万が一でもこの記事が誰かへの布教のきっかけになればと願うばかりです。