おすすめの百合作品を紹介する⑨ユリ熊嵐

おすすめの百合作品を紹介する⑨ユリ熊嵐

漫画や小説を作者買いすることはよくあると思います。では、アニメの場合はどうでしょうか。監督で選ぶ人、脚本家で選ぶ人、制作会社で選ぶ人、いろいろいるでしょう。特に、アニメ監督にファンがつくケースは昔よりだいぶ一般化したと思います。たとえば、『君の名は。』で新海誠を知り、新作を追うようになったという人もいるでしょう。原作から入るのもいいですが、「この監督だから」という理由で作品を見てみるのも、意外な出会いがあって楽しいものです。
私の場合、毎回新作を楽しみにしている監督といえば、幾原邦彦監督です。幾原監督はもともと東映でセーラームーンなどの有名アニメの制作に携わっていた人ですが、独立後に自ら監督した『少女革命ウテナ』で注目され、以降も話題作を作り続けています。歌劇のようなきらびやかな演出、寓話のようなストーリー、哲学的なテーマなどが作風で、考察しがいのある作品が多いのが特徴です。正直、私も新作を楽しみにしているわりに、作品のメッセージ性や意図を深く理解できている自信はありません。あとから人の考察ブログを読んで「そういう意味だったのか…」と気づくくらい、パッションだけで応援しているファンですが、それでも惹かれるものがあるのです。
百合好きの視点から見ても、刺さる部分の多い監督です。『少女革命ウテナ』がそもそも百合展開の多い作品ですし、今回紹介する『ユリ熊嵐』なんて、もうタイトルからして百合です。百合アニメを探しているうちに、どちらかのタイトルを知ったという人も多いでしょう。難解なイメージを持たれることも多い幾原作品ですが、それを払拭できればという思いも込めて、『ユリ熊嵐』の魅力や個人的な楽しみ方を紹介したいと思います。

まずはストーリーを純粋に楽しむ

ユリ熊嵐は2015年に放送された全12話のTVアニメです。幾原監督のオリジナルTVアニメシリーズとしては3作品目にあたり、アニメとは別の物語を描いた漫画版も出ています。ストーリーはなかなか説明しづらいのですが、大筋を紹介すると、こんな感じです。
舞台は人とクマが対立している世界。人々はクマの襲撃をおそれて戦々恐々とする日々を送っています。そんな中、主人公で高校生の椿輝紅羽(つばき・くれは)のクラスに二人の転校生、百合城銀子と百合ヶ咲るるがやってきます。しかし、この二人は実は人に化けたクマ。二人はなぜか初対面のはずの紅羽のことを知っていて、執拗に接近を試みます。二人の目的は何なのか、そしてなぜ紅羽にこだわるのか……。それが明らかになっていく中で、物語は意外な方向に進んでいきます。
最初は、「クマってなんだ?」「なぜ変身できるのか?」など、独特な設定に驚くかもしれません。しかし、この作品のすごさは、そんな現実離れした世界観にもかかわらず、不思議とストーリーに没入できて楽しめてしまうことです。カオスなようでいて、ちゃんと人間ドラマ(クマですが)や謎解きミステリー的なエンタメ要素があるので、先が気になってしまうのです。
人間ドラマの面では、百合的には銀子と紅羽の関係性が見所ということになります。銀子はとある事情があって紅羽との距離を縮めようとします。一見、クールで感情を表にしない銀子ですが、内に秘めたる紅羽への思いは熱く、拒まれても一途に思い続けます。一方で、紅羽も抜き差しならない事情があって、銀子たちに心を許すのが難しい。仲良くなれそうでなれない二人の関係がどうなっていくのか。それを追いかけるだけでも、ストーリーは十分に楽しめるでしょう。
もちろん、この二人以外にも魅力的なキャラクターがたくさん登場します。特に、それぞれのキャラに切ないサイドストーリーがあるのがいいのです。ネタバレになってしまうので深くは書きませんが、叶わない恋愛や届かない思いを描いたストーリーが特に素晴らしいです。切ない話が好きな人には絶対刺さると思います。
もう一つ、ミステリーの要素も見逃せません。銀子が紅羽にこだわる理由、銀子とるるが人に変身できる理由、クマと人とが和解できない理由。人間ドラマが進んでいくのと同時に、ストーリーの根幹となる部分も徐々に明かされていくのですが、すべてがわかったときには「そうだったのか!」という爽快感があるはずです。サスペンスのような謎が謎を呼ぶ展開が好きな人にもおすすめできるかもしれません。

気になってきたら考察してみる

ストーリーにハマってきたら、次に楽しみたいのが考察です。考察は好き嫌いあると思いますが、より作品世界に没頭したくなったときの楽しみ方の一つではあります。
他の幾原作品もそうですが、ユリ熊嵐には独自の用語がいろいろと出てきます。透明な嵐、約束のキス、ユリ裁判などなど……。一度聞いただけでは「なんだこれは?」と思うかもしれませんが、これをどう解釈するかが面白いのです。
たとえば、放送当時は、そもそも人とクマ自体が何かのメタファーなのではないかという考察がたくさん出ました。「男女の暗喩ではないか」と言う人もいれば、「マジョリティとマイノリティではないか」「愛情と欲望ではないか」など、SNSやブログでさまざまな意見が交わされました。
作中のモチーフについても面白い考察があります。たとえば、作中にはクマリア様という女神様が出てきたり、キャラクターが罪の意識について話すシーンなどがあるのですが、そうした要素からキリスト教との関連性を説くものもありました。noteや個人ブログを検索してみると、こういった専門的な知識で書かれた考察がたくさん見つかるので、物語を見終わったあとにも二度楽しめます。
無論、どれが正解かというのはありませんが、人の考察を読みながら、「こんな視点もあったのか」と驚いたりするのは意外と面白いものです。自分だけではわからなかった作品の良さやテーマ性に気づいたりもでき、作品世界が広がります。

わからなくても楽しい

ここまで作品の魅力として、ストーリー性や考察しがいなどを紹介してきましたが、あえて最後に紹介したいのが、視覚や聴覚に訴えかけてくる感覚的な楽しさです。むしろ個人的には、幾原作品が好きな理由はこれに尽きるのではないかとすら思います。
感覚的な楽しさでいえば、まず注目したいのが、圧倒的な絵の良さです。森嶋明子先生のかわいいキャラデザに、クマというかわいいモチーフ、ファンタジー感のあるかわいい世界観。かわいいものが好きな人なら、画面を見ているだけでもテンションが上がってしまうはずです。個人的に一押しなのは、銀子とるるの変身シーン。銀子とるるは、人間形態とクマ形態のほか、クマ耳の半獣形態に変身できるのですが、このクマ耳形態がとにかくかわいい!変身バンク自体も凝っているので、ぜひ見てほしいと思います。
さらに、キャラクターの動きの良さも魅力です。ユリ熊嵐はタイトルに百合と冠するだけあって、百合っぽいシーンが大量に出てきます。銀子から紅羽への接近、銀子とるるのさりげないじゃれ合い、クマの女の子への襲撃……。と言うと物騒ですが、作品世界ではクマもまた女の子として描かれています。つまり、凄惨な殺戮のシーンがあるわけではなく、女の子を襲う女の子のシーンがたくさん見られるわけです……。
他にも、ギャグシーンのテンポのよい掛け合い、ユリ裁判のド派手な演出、記号的で格好いい背景など、目で追うだけでも楽しめる魅力がいろいろあります。最終的には「なんかわからないけどいいな…」と思えたら、それはそれでOKなのです。


まずはストーリー、深堀りしたくなったら考察、そのうえで「考えるより感じろ!」と、何段階にも楽しめる作品です。私は他の幾原作品もだいたいこんな感じで見ていますが、本作は特に考察がなくても楽しめる部分が多いので、初幾原作品としてもおすすめできると思います。サブスクでも気軽に見られるので、ぜひここから幾原作品の沼に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか……。