百合好きの間で今年流行ったアニメといえば、少し前までは『リコリス・リコイル』が強かった印象ですが、今は『水星の魔女』でしょう。1話の衝撃的な展開から、ハマってしまった人も多いはずです。脚本の大河内一楼さんの経歴から少女革命ウテナを思い出した人も多いようですが、百合×ロボアニメという視点で捉えてみると、違ったアニメも思い出されます。『神無月の巫女』です。
神無月の巫女は2004年に放送されたTNK制作のアニメ作品です。同年にはアニメ放送に先んじて、少年エースで介錯による漫画版も連載されていました。
今でも名作百合アニメとして知られた作品ですが、そのストーリーや設定の独自性から、かなり異色な作品だったといえます。百合とロボットという組み合わせだけでも珍しいのに、ヤマタノオロチ神話や巫女、男性キャラを交えた三角関係など、とにかく一つひとつの要素が濃いのです。当時、ロボアニメだと思って見始めた人は驚いたに違いありません。
私はリアタイしていたわけではなく、もともと百合作品だと知った上で見たのですが、それでも1話を見たときには、なんてカオスな作品なんだ……と衝撃を受けました。でも、その衝撃が冷めやらぬまま見続けているうちに、だんだんとカオスな設定と重いストーリーの独特なバランスにハマってしまい、最終回は思いがけず感動してしまいました。
人を選ぶ作品ではあるかもしれませんが、刺さる人には刺さる作品でしょう。これから見ようか迷っている方に向けて、ぜひ見所を紹介したいと思います。
ロボと百合の絶妙なマッチング
まず注目したいのが、設定の面白さです。先にも触れたように、ロボに百合に恋愛に巫女に……と、とにかく要素が多いのですが、この多すぎる要素が逆に独特な魅力になっているのは間違いありません。
ストーリーを簡単に紹介すると、主人公の姫子と同級生の千歌音(ちかね)は16歳の誕生日に天変地異に遭い、大昔に世界を滅ぼそうとしていた厄災・ヤマタノオロチが復活しようとしていることを知ります。しかも、二人はそのヤマタノオロチを封印した伝説の巫女の生まれ変わりであり、厄災と戦う運命にあったのです。しかし戦いの中で、姫子は幼馴染みで思い人のソウマが敵側の人間であることを知り、葛藤します。さらにその裏では、千歌音も密かに姫子への思いを募らせていき……。
これだけでも十分に盛りだくさんなのですが、面白いのが敵であるヤマタノオロチの設定です。ヤマタノオロチ側にはオロチ衆という8人の手先がいるのですが、なぜか彼らはロボットに乗っており、味方側もロボットに乗って戦うのです。
正直、ロボアニメと言っていいのか迷うほど、ロボットの活躍シーンが多いわけではないのですが、そのわりにはデザインが格好よかったり、変形も凝っていたり、見所になっています。ロボ要素はいらないという声もあるかと思いますが、むしろロボ要素があるからこそ他にないシーンが楽しめる作品になっているともいえるでしょう。
少しネタバレになってしまいますが、1話のラストの、ロボで戦うソウマの足下で姫子と千歌音が抱き合うカットは衝撃的です。美しいようなシュールなような他では味わえない百合を見ることができるので、ぜひ1話だけでも通して見てほしいと思います。
辛い展開が続くからこそ輝く百合描写
次に推したいのが、ストーリーの重厚さです。世界の滅亡に悪の組織との戦い、愛する人の闇落ち……など、今時は敬遠されそうなヘビーな展開が続きますが、だからこそ終盤のカタルシスも大きいのです。
数々の苦難を乗り越えながらも関係を深めていく、姫子と千歌音の百合描写の美しさは必見です。今にも滅びそうな世界で起きる出来事であるがために、日常パートの尊さや心理描写の切なさもより輝くのです。
例えば、オロチとの戦いが深刻化する中、姫子と千歌音が離ればなれになるシーンがあります。二人は会えない時間の中でお互いへの思いを強めていくのですが、幾度かの激しい戦いの末にようやく再会を果たします。そこで久しぶりに会った二人は、何事もなかったかのように食事を共にしたりお泊まり会をしたりするのですが、怒濤の展開があったのを知った上で見ると、何でもない日常の描写ですらすべて美しく見えます。
さらに、美しい描写は姫子と千歌音の関係性だけにとどまりません。千歌音の家でメイドとして働いている乙羽というキャラクターがいるのですが、メインの物語ではないものの、彼女が千歌音に寄せる思いを描いたサイドストーリーにも胸を打たれるものがあります。小さい頃から慕っていたお嬢様である千歌音が過酷な運命に巻き込まれていくのに自分は何も力になれない……。その苦悩を経て彼女も新しい道を模索していくのですが、その結末はぜひ本編を見て知ってほしいと思います。
三角関係とリアルな純愛ストーリー
最後におすすめしたいのが、熱い純愛ストーリーです。ここが賛否がわかれる点でもあるのですが、本作では男性キャラを交えた三角関係が展開されます。しかし、それゆえに他の作品にはない、より胸に迫る恋愛物語が楽しめるのです。
最近は百合作品の中で恋愛も絡めた重要人物として男性キャラを出すのは一部タブー視されているところもありますが、当時は百合作品自体が珍しかったこともあり、本作ではそういった配慮は特になく男性キャラが登場します。しかも彼は、主人公である姫子の思い人でもあるのです。
ただ、彼は男性キャラがどうしても地雷だという方以外であれば、感情移入してしまいたくなるような魅力的な人物でもあります。彼は自らが敵側の人間でありながらも、姫子たちと対立したくないがために謀反を企てます。そして、戦いの中で自らの身を滅ぼしならも、信念を貫いて姫子を守ろうとする……。そんな好人物であるソウマだからこそ姫子も惹かれるのであり、それを応援しながらも自身も姫子に思いを寄せる千歌音の切なさが引き立つのです。
さらに他作品との違いとして、千歌音から姫子への思いがエス的な憧れや友愛ではなく、しっかりと恋愛感情として描かれている点も注目に値します。2004年といえば本作よりも先に『マリア様がみてる』の1期が放送されていますが、マリみてはどちらかといえばエスの要素が強く、女性同士の恋愛が全面に描かれた作品は相当珍しかったはずです。
千歌音は姫子が屈託なく口にする「好き」という言葉に「私の好きはそういう好きではない」と思い悩むのですが、いまの百合作品では定番のこういった描写も、昔のアニメで明確に描かれていたのは画期的だったといえます。このように自分の恋愛感情に思い悩む千歌音のシーンは数多く登場しますが、どれも胸を打たれます。物語を追うごとに、「どうか報われてくれ……」と思わずにはいられないでしょう。
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盛りだくさんな要素に重厚なストーリー、熱い三角関係……。本作は百合アニメの黎明期だからこそ生まれた異色の作品といえます。もちろん昔の作品なので、今のトレンドから外れていたり、表現に古さを感じる部分もあるかもしれませんが、それでも他の作品では味わえない随一の魅力があると思います。
サブスクでも配信されていますので、この年末、新しい作品を開拓するような気持ちで見始めてみてはいかがでしょうか?

